Q. 風が吹けば地球温暖化が止まる?

A. (太平洋赤道域を吹く西向きの貿易) 風が (いつもよりも強く) 吹けば (、10年程度の期間は) 地球温暖化が 止まる 遅くなる。(ただし、その後には揺り戻しによって温暖化の加速が起こり、50年あるいは100年の長さで見れば、この効果によって温暖化が止まるわけではない。)

当研究室はこんな研究もしています。(ちなみに風力発電の話ではありません。)

1990年代末頃から2010年代初めにかけての15年ほど、地球温暖化、つまり地球表面温度の地球全域 (陸上も海上も合わせて) に渡る平均値の上昇が、顕著に遅くなりました。これは地球温暖化の「ハイエイタス」(「停滞」あるいは「中断」の意) とも呼ばれ、気候科学者だけでなく社会からも関心を集めました。この期間も、二酸化炭素濃度は上昇を続けていました。では一体何が起こったのでしょうか?

全球平均 (つまり、陸域も海域も含む地球全体での平均)・年平均した地表気温。1981年から2010年までの平均値からの差で表している。背景が白抜きになっている部分が地球温暖化の「停滞」期で、その期間の拡大図を左上のインセットに示した。気象庁のデータに基づく。

気候は、人類が排出する二酸化炭素などによって変化するだけでなく、自然要因によっても常に揺らいでいます。「エルニーニョ現象」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? エルニーニョ現象は、太平洋で赤道に沿って海面水温が平年よりも著しく高くなる現象で、このときその上を吹く西向きの風「貿易風」がいつもよりも弱くなっています。逆に、赤道太平洋で貿易風が強まり、海面水温が平年よりも低下する現象が「ラニーニャ現象」です。エルニーニョ現象やラニーニャ現象は発生すると1年程度の間続き、地球全体の風の吹き方を変えて世界各地に異常気象をもたらします。このため、各国の気象機関はその状態をモニターし、予測しています。

エルニーニョ現象やラニーニャ現象は自然変動です。ある年にエルニーニョ現象が起こったり、別の年にラニーニャ現象が起こったりすること自体は、人類のせいではありません注1。そして、エルニーニョ現象は全球平均地表気温 (地球全体で平均した表面気温) を少し上げ、ラニーニャ現象は逆に少し下げることが知られています。上の図において、全球平均地表気温は長期的な上昇傾向にあるだけでなく年々で上下していますが、その主な原因はこのエルニーニョ現象・ラニーニャ現象であり、それは自然に (つまり人類の活動とは無関係に) 発生したものです。

エルニーニョ現象やラニーニャ現象はそれぞれ数年に一度起こりますが、その発生に周期性はなく、概ねランダムに起こります。このため、ある10年間にはエルニーニョ現象が多かったり、別の10年間にはラニーニャ現象が多かったり、また別の10年間にはエルニーニョ現象もラニーニャ現象もあまり起こっていなかったりします。これによって、ある10年間は全球平均地表気温が高めになったり低めになったりします。これも自然変動です。1997年から98年にかけて、観測史上最も強いエルニーニョ現象が発生し、全球平均気温を押し上げました。その後しならくの間、強いエルニーニョ現象は起こらず、代わりにラニーニャ現象が頻繁に発生し、全球平均気温を下げるように働きました。自然変動によるこの10-15年程度の寒冷化傾向が、人類が引き起こす温暖化傾向を一部相殺し、温暖化を停滞させたことを、当グループの研究が示しました。さらに、他のいくつかの自然要因 (北半球高緯度の大気の流れの変動や火山噴火などの自然起源の変動) も寄与したと考えられています。

エルニーニョ現象とラニーニャ現象のそれぞれの頻度や強さは、このように10年程度の期間では偏りが起こりますが、100年程度の期間ではほとんど偏りはなくなります。つまり、ある10年間の自然変動が寒冷化傾向であっても、その傾向が何十年にもわたって続くことはまずありません。実際に、2013年以降、全球平均地表気温は急激に上昇しました。2015-16年の強いエルニーニョ現象によって2016年に全球平均地表気温の記録を更新し、以降高い状態を維持しています (上の図)。年平均・全球平均地表気温の1位から5位の記録はすべて2015年以降です。

つまり、「自然の揺らぎに伴って貿易風が平年よりも強く吹き、ラニーニャ現象が頻発すれば、10年程度の期間、人類が引き起こす全球平均気温上昇傾向の一部が相殺され、地球温暖化が遅くなることがあるが、揺り戻しによる地球温暖化の加速によってその効果は長期的には打ち消され、数十年あるいは百年規模で起こる地球温暖化傾向には影響しない」のです。

注1. ただし、地球温暖化に伴って、エルニーニョ現象やラニーニャ現象の強さや持続時間などの統計的な性質が変わってきた可能性はあります。